水溜りを覗いていたお客さんが、「あの大きなエビ、仲間の頭を持って歩いていますよ!」とびっくりしたように叫んだ。確かにテナガエビは共食いをすることもある。そういうこともあるだろうか。
それより少し前、みんなで、幼児に大人気のアニメ「あんぱんマン」におけるカニバリズムについて話していたところだった。今のアンパンマンはかなりソフトになってしまったが、僕らが子供の頃、つまり30年も前のアンパンマンは頻繁に頭のアンパンを食われていた。食われるのが見せ場で、そこが水戸黄門における紋所と同じだった。そして首なしのまま飛んでいった。それを作者は自己犠牲の精神として描いたのかも知れないが、子供たちはそこにゾクゾクした倒錯した気分を得たものだ。というようなどうでもいい話。
その話が頭に残っていたんでしょうね。僕が覗いてよく見れば、それは共食いではなく、脱皮の途中。長いはさみが抜け切れないで他のエビを抱えているように見えなくもない。
脱皮したてのエビは体を揺すりながら、少しでも早く、体の隅々まで体液を充満させよとしているようです。特に最大の武器である長いはさみはユラユラ、フニャフニャと体を揺する度に情けなく揺れています。それでも、人の気配に気付いた時、エビは得意のエビ反りダッシュで後ろ向きに飛んで姿を消しました。