サンガツサニチの獲物

Sp4190004 旧暦3月3日。女性が海に足をつけ、一年の息災を願うという行事がある。サンガツサニチもしくはハマウリ(浜下り)という。実際にただ海に足をつけるだけという人はあまりいない。この日はとにかく潮が引く。リーフまですっかり陸地になるぐらい引く。なので、みんな陸地になった海を歩き回り、獲物を探すのだ。つまりは潮干狩りである。

それには男も女も関係ない。女性の狙いは貝にモズクといった動かないものが多いが、その中でもオバアと尊敬を込めて呼ばれる人種はもっといいものを狙う。潮溜まりに残った魚、イカ、そしてタコである。これは主に男の領分であるが、オバアはしっかりこういったちょっといい獲物を狙う。

さて、僕はなぜかタコヤキがずっと食べたかった。とにかく食べたいのだからしょうがない。しかし、妻にはにべもなく「タコがない」と断られた。そんなあくる日、これがたまたま3月3日である。妻が採りたいというモズクのある場所を下見に、僕はまだ潮が高いうちから予定地周辺を潜ってみた。そして砂地にボコッと珊瑚が突き出た場所で珊瑚の下から何か赤黒いものがニョキッと出てきて、近くを泳いでいたアバサー(ハリセンボン)を一瞬で膨らませたのを目にしたのだ。そのニョキッはアバサーの針に触れて一瞬で珊瑚の下に引っ込んだのだが、僕は見逃さなかった。

たこだ。逃さぬ!今日はタコヤキだ!早速タコ捕獲にかかるが、今は下見の為何一つ持ってきていない。とりあえず素手で、と手を突っ込んでみるが、あのベタベタの吸盤に吸い付かれて躊躇する。珊瑚の穴から追い出してからだなと思い直し、今度はシュノーケルでタコをこちょばしにかかるが、逆にすごい勢いで引っ張り込まれ、引っ張り合っているうちにシュノーケルの先端部を奪い去られてしまった。これは駄目だ。近くの友人にイーグン(先端が曲がった銛)を借りてこようと考え、一端休戦することにした。

ただ、ただ休戦ではその間に逃げられても困るというので、近くの石を集めてタコの穴に厳重な蓋をする。同時にすぐに戻ってこられるよう、赤いフクロを珊瑚に結び付けて目印とした。

さて、友人はいなかったものの、近くを通ったオバアにイーグンを借りれたので早速もう一度挑む。イーグンの先でタコをこちょばすように触り、穴からおびき出すのだが、下手糞なのでなかなかタコも出てきてくれない。巧い人ならほんのコチョコチョである。が、格闘すること30分。敵もあまりの僕の下手さ加減にあきれ果てたのか、穴の奥からようやく体を現した。すかさず、胴体(俗にいう頭)をわしづかみにし、岩から引き剥がす。そして目と目の間の急所を一突き。ついに捕らえた。大きなタコだ。

辺りには、浜下りにきた子供たちが集まっていて、ちょっとしたヒーローである。

が、残念ながら僕の期待のタコヤキだが、「こんな上等なタコでは勿体無い!」と断られ、結局食べさせてもらえなかったのである。そんなのってない・・・。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>