月別アーカイブ: 2007年4月

トーフ岩を押す(アーカイブ)

Sminamikaigan 海岸を歩くなら満潮時よりは干潮時がいい。それも大潮の最大満潮なんかに合わせて歩くと、実に歩みは快調だ。満潮時には大きな岩ばかりが連なる為に、上ったり跳んだりして越えていかなくてはいけない難儀な磯も、干潮時ならばちょっと沖を回ればいいだけ。潮の引いたイノーの底はだいたいなだらかで、走れと言われれば走れる。この辺りにはまだ珊瑚は見えない。珊瑚はもう少し奥。海手に連なる。

写真は南風見田を西へ約2時間歩いたところにある大きな岩。なぜか広い海岸にポツンと転がっている。いや、鎮座している。通称トーフ岩(豆腐)。おそらく山の高~いところから台風や地震の土砂崩れでゴロンゴロンと転がってきたのであろうが、その大きさ、形は見事という他ない。

西表では本来、「イワ」と呼ばない。どんな大きな岩石も「イシ」と呼ぶ。だからこのトーフ岩も正しくはトーフイシ。ただなんとなく網取の「ゴリラ岩」と同じような匂いがある。多分、近世になって誰かが形から名付けた単純な名前のような気がする。ただ、一度は見ておきたい西表の光景の一つである。

イカの卵のう

S20070424ika 上陸した砂浜で半透明な海藻らしきものがいくつか打ち上げられていた。たまたま目にしたそれが、なぜか気になって拾い上げてみた。プヨプヨした触感。海藻らしくない。で、光に透かして見ればハイこの通り。1房1房にはもうすぐ泳げるぐらいに成長したイカの赤ちゃんが。かわいい。

おそらく近場の海草の間に生みつけられていたものが、何らかの原因で海草からはがれ、流されてきたのだろう。海に戻してみたが、すぐに浜に打ちよせられる。はがれてしまった以上、もう、駄目なのかも知れない。

ならば、持って帰って食べてみるかと思い、まずそのまま味見。う~む。イカの味はしない。ぷちっと噛み潰した卵のうから染み出す、海の味そのままの液体はまるで美味しくないし、少し気持ち悪い。家でも誰も喜ばないだろう。

というので、写真だけとって、少し沖まで持っていって流した。多分駄目だろうけど。

サンガツサニチの獲物

Sp4190004 旧暦3月3日。女性が海に足をつけ、一年の息災を願うという行事がある。サンガツサニチもしくはハマウリ(浜下り)という。実際にただ海に足をつけるだけという人はあまりいない。この日はとにかく潮が引く。リーフまですっかり陸地になるぐらい引く。なので、みんな陸地になった海を歩き回り、獲物を探すのだ。つまりは潮干狩りである。

それには男も女も関係ない。女性の狙いは貝にモズクといった動かないものが多いが、その中でもオバアと尊敬を込めて呼ばれる人種はもっといいものを狙う。潮溜まりに残った魚、イカ、そしてタコである。これは主に男の領分であるが、オバアはしっかりこういったちょっといい獲物を狙う。

さて、僕はなぜかタコヤキがずっと食べたかった。とにかく食べたいのだからしょうがない。しかし、妻にはにべもなく「タコがない」と断られた。そんなあくる日、これがたまたま3月3日である。妻が採りたいというモズクのある場所を下見に、僕はまだ潮が高いうちから予定地周辺を潜ってみた。そして砂地にボコッと珊瑚が突き出た場所で珊瑚の下から何か赤黒いものがニョキッと出てきて、近くを泳いでいたアバサー(ハリセンボン)を一瞬で膨らませたのを目にしたのだ。そのニョキッはアバサーの針に触れて一瞬で珊瑚の下に引っ込んだのだが、僕は見逃さなかった。

たこだ。逃さぬ!今日はタコヤキだ!早速タコ捕獲にかかるが、今は下見の為何一つ持ってきていない。とりあえず素手で、と手を突っ込んでみるが、あのベタベタの吸盤に吸い付かれて躊躇する。珊瑚の穴から追い出してからだなと思い直し、今度はシュノーケルでタコをこちょばしにかかるが、逆にすごい勢いで引っ張り込まれ、引っ張り合っているうちにシュノーケルの先端部を奪い去られてしまった。これは駄目だ。近くの友人にイーグン(先端が曲がった銛)を借りてこようと考え、一端休戦することにした。

ただ、ただ休戦ではその間に逃げられても困るというので、近くの石を集めてタコの穴に厳重な蓋をする。同時にすぐに戻ってこられるよう、赤いフクロを珊瑚に結び付けて目印とした。

さて、友人はいなかったものの、近くを通ったオバアにイーグンを借りれたので早速もう一度挑む。イーグンの先でタコをこちょばすように触り、穴からおびき出すのだが、下手糞なのでなかなかタコも出てきてくれない。巧い人ならほんのコチョコチョである。が、格闘すること30分。敵もあまりの僕の下手さ加減にあきれ果てたのか、穴の奥からようやく体を現した。すかさず、胴体(俗にいう頭)をわしづかみにし、岩から引き剥がす。そして目と目の間の急所を一突き。ついに捕らえた。大きなタコだ。

辺りには、浜下りにきた子供たちが集まっていて、ちょっとしたヒーローである。

が、残念ながら僕の期待のタコヤキだが、「こんな上等なタコでは勿体無い!」と断られ、結局食べさせてもらえなかったのである。そんなのってない・・・。