6月最初の大潮である。西表の海は奥はさんご礁に囲まれているが、陸に近い内側や川の河口は砂や泥が堆積した藻場となっている。特にウミショウブなどの海草が生えるアマモ場(ウミショウブ場でもいいかな)は特に重要な役目がある。
まず、河口からの泥土をここで受け止め、根元に堆積させる。これにより、大雨の後などでも、陸からの濁った水は海に向かって行くに従って浄化され澄んでいく。
また、小さな魚達に格好の隠れ場となると同時にその餌場ともなって、生態系の底辺を支えている。
さて、このウミショウブ。海草であるから、モズクなど他の海藻と一緒にされては困る。海藻が胞子などで増えるのと違い、こちらは花もつければ種子も作る。勿論、花があるのだから受粉もされなければならない。雄花が作る花粉を雌花の雌しべへと送る作業は、やはり水の中では難しい。その為、ウミショウブは大潮でもっとも潮がひいた時間にぽっこり海面に花を咲かせる。雄花から溢れ出た沢山の花粉を乗せた小さな白いカプセルは潮のひいた海面を滑り、雌花へ辿り着く。そして受粉する。
当然、辿り着く確率は低い。風任せ、波任せである。なので、本当に沢山のカプセルが海へと放たれる。そしてごく一部が受粉に成功する。やはり、オスは競争なのだ。
ひとしきりの饗宴の終わった後、辿り着けなかったカプセルたちは波間に漂い、やるせなく汚れ、消えていくのだった。